2014年12月1日月曜日

常温核融合時代に向けてリスクヘッジを考えるエネルギー大国ノルウェー

この件が話題になるまで知らなかったのですが、ノルウェーはたいへんエネルギーに恵まれた国で、2012年の「ノルウェーのエネルギー事情」という資料には以下のように特長がまとめられています。
  1. ノルウェーはエネルギーの輸出国。国内エネルギー需要の6~7倍相当分を輸出。
  2. ノルウェーは,世界第2位の天然ガス輸出国,世界第7位の石油輸出国。
    石油・天然ガス生産は,推定可採埋蔵量(約 131億石油換算立方メートル)のうち既に約44%を生産済み。生産は,2020年頃から今世紀半ばに向け減少の見込み。
  3. ノルウェーは世界第6位の水力発電国。発電可能な水資源の約60%を開発済み。電力生産量の約95%は水力発電。
  4. 水力発電以外の再生可能エネルギー生産は限定的であるが,風力の開発を推進,助成。 

各国の輸出に占める石油の割合を解りやすくまとめたサイトにも、中東諸国と並んで、ノルウェーの以下のようなグラフが出てきます。



さて、常温核融合関連の雑誌としては老舗のInfinite Energy誌のサイトに、米国SRIの常温核融合研究者として有名なMcKubre博士のノルウェー訪問記が掲載されました(原文は以下)。
http://www.infinite-energy.com/iemagazine/issue119/norway.html


驚いたことに、ノルウェーから、常温核融合セミナーの発表者の一人としてMcKubre博士を招聘したのです。エネルギー大国のノルウェーは、常温核融合の登場によって、エネルギー産業がどのような影響を被るのかを予想し、リスクヘッジをするために常温核融合の研究チームを起こそうとしているようです。科学者と政府が、たとえ見たくない事実であってもきちんと調査・認識して、未来へ向けての対処を考えていると知って、羨ましく思いました。官民挙げて滅び行く原発にしがみついている日本とはたいへんな違いです。

とても興味深い訪問記でしたので、勝手ながら日本語に意訳してみました。もし、不十分な点に気づかれましたら、遠慮なくご指摘ください。



ノルウェー訪問記
Michael C.H. McKubre*
2014年11月12日

これは、最近、ノルウェーを訪問した私の個人的なレポートです。
いくぶん出し抜けに、今年(2014)の5月に、知らない男性(ニルス・ホーム氏)からノルウェーに招待されました:「LENR(常温核融合)に関する半日のセミナーを今年11月にオスロで開催するため、ノルウェー科学技術アカデミー(NTVA)とノルウェー科学技術プロフェッショナル育成協会(Tekna)はプログラム委員会を設立しました。私は委員会の議長を拝命しました。貴殿にセミナーでのプレゼンテーションをお願いできないでしょうか」。私は最初は断ろうと思いました。ノルウェーは私がいる場所から遥かに遠く、そして、米国と同じように、ノルウェーはエネルギーの豊かな国であり-北海油田に恵まれています-、LENRの研究パートナーとしては、一見ありそうもない候補です。
しかし、北欧の国々の信頼感と関わりは、アンドレア・ロッシ氏の技術に対する追究と技術的なデュー・ディリジェンスを行ったMats Lewan氏、Hanno Essén氏、Sven Kullander氏(故人)によって、最近大いに強くなりました。
好奇心と自尊心(「プログラム委員会は、あなたの貢献がセミナーと我々のメッセージの信頼性を強化すると強く信じています。オスロであなたに会えるよう望みます!」)に押されて、2014年11月5日に日程を設定しました。これは、偶然にも、SRIでの私の仕事の36周年記念日と同じ日でした — 私はこれまでずっとSRIで働いてきたのです。

私のホスト役であるニルス・ホーム氏は、「LENR」と書いた紙を目印にオスロ空港に出迎えてくれて、私をホテルへ連れて行ってくれました。45分間のドライブや翌日のオスロ市内の素晴らしいツアーの間に、ニルス氏がとても誠実で有能な人であり、たいへん真剣な目的を持っていると分かりました。[ニルス氏は核工学の教育を受け、幅広いエンジニアリング経験を積んで、ノルウェーのDefense Research Establishmentのトップを務めたことがあります]。私にとって予想外の喜びは、5日の話者の一人はHanno Essén氏であり、ニルス氏と私は4日の夕食をHanno氏と一緒にできた事でした。私は、この人に会って、ロッシ氏に接した彼の経験について質問したかったのです。
Hanno氏達の31日間にわたるLuganoテストのレポートに対する批評をInfinite Energy誌に載せたところだったので、歓迎されるかどうか分かりませんでした。しかし、そんな心配は無用でした。Hanno氏は、とてもしっかりした科学者であると分かりました — ほとんど全ての事を疑い(スウェーデンの懐疑論者協会の元会長に相応しく)、非常に基礎がしっかりしていて、正直で率直でした。我々の夕食会は、たいへん有意義なものでした。Infinite Energy誌の批評をどう思うか、Hanno氏に尋ねました、彼は、「フェアだと思いました」と言い、私は「それ以上には言えないのだな」と思いました…

翌日の半日セミナーに参加できて本当に嬉しかったです。構成は珍しいものでした。発表者は4人でした(2人のスウェーデン人、1人のノルウェー人と私)。スウェーデン人[Stone Power AB社、元ABB社のSten Bergman氏、ストックホルムKTHの機械学部のHanno Essen氏]はスウェーデン語で話し、ノルウェー人[ノルウェー・ビジネス・スクールの教授を含む幅広くて印象的な経歴の経済学者であるOystein Noreng氏]はノルウェー語で話し、私は英語で話しました。観衆は約60人、様々な背景と関心を持っている人達で満席となっており、移り変わる講師の話を落ち着いて聞いていました。Google Translateの助けを借りて、私もスライドをフォローできました。
Sten Bergman氏は、エネルギー産業の観点からLENRについて話しました。Hanno Essén氏はE-Catの追試についての彼の経験を話しました、私はSRIでの常温核融合/LENR/CMNSの25年の歴史について話し、Brillouin Energy社の最新の技術的な成果について説明しました。Øystein Noreng氏は、LENR技術を市場に持ち込む際の経済やその他の課題について話しました。話が終わった後、4人はニルス・ホーム氏が司会するパネルディスカッションに参加しました。

一般に、私はパネルディスカッションは少しつまらないものだと思っていましたし、その上言語の問題があるので期待していませんでした。でも、そんな心配は無用でした。パネリスト達は、論理的で、問題に精通しており、有益な知識を披露し、簡潔で、筋が通っていました。ニルス氏は、明らかにこういった事に長けており、プロフェッショナルらしく議論をリードしました。

何を目的とする議論なのかと疑問に思うでしょう。
議論の目的がはっきりと分かったのは、パネルセッションの時でした。私は、なぜ招かれたのでしょうか? NTVAとTEKNAは、委員会を作り、シンポジウムを組織して、ある特定の意図を持って参加者を招待しました。先ほど述べたように、ノルウェーの経済は海岸沖で採掘される石油と天然ガスに非常に大きく依存しています。彼らの社会は、大部分の市民が多くの仕事をしなくても成り立つようになりました。

問題は、油が尽きるとき何が起こるのか、あるいは、他の主要なエネルギー源が石油や天然ガスと競合するようになったとき何が起こるのか? ということです。先見の明のあるスカンジナビア人は、役人であれ企業人であれ、この可能性に対するリスクヘッジの手段に目を向けています。少なくとも、一部の人は、状況を完全に把握する唯一の方法は、その開発に関与することだと思っているようです。科学者は苦労して得たアイデアを金で売るのを嫌い、むしろ他の科学者とアイデアを交換しながら協力するのを好みます。これが我々が進歩する方法です。

ここオスロで試みられていたのは、1989年5月1日のAPS会議で撒かれた種に対処する教育的な運動と同じでした。それは教育者と研究者の心を害したのです。議論の対象はマーチン・フライシュマンが正しかったか否かでした。(それは、ランディ・ミルズ、メル・マイルス、フランチェスコ・ピアンテリ、レス・ケース、荒田吉明、アンドレア・ロッシ、水野忠彦、Defkalion、ブリュアンなどと言い換えても同じです)。

今回の主催者が意図したのは、少なくとも一つの活発で生産的な研究活動を北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)に立ち上げ、LENR/CMNS界で役割を演じられるコミュニティとして、今後の突然の進歩に備えようとするものだと私は理解しました。第二の目的は、これから起こるテクノロジーの次世代のリーダーに若者を育てることです。

今までの経緯を念頭に置くと、「ヘッジする」ノルウェーの戦略は、危険も少なく、最小限のコストで実行できる適切なものに思えます。最悪のケースでも、自然科学の関連した学科と広範囲にわたる応用と実現例の価値を持つ物理学で、若者を訓練できます。最高のケースでは、ノルウェー、スウェーデンと北欧諸国が来たるべき新しい波の先陣を切っていけるでしょう。
ホストの方々やプレゼンターやパネリストの方々に感謝の意を表します。
どうぞ楽しんでください。

以上



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