2009年12月27日日曜日

荒田博士の公開実験で配付された論文について

2008年5月22日(木)に大阪大学名誉教授である荒田吉明博士が実施された固体核融合の公開実験のニュースはインターネット上で良く紹介されています。夢エナジー氏の以下のサイトにはこの公開実験関連の豊富な情報がまとめられています。

http://www10.ocn.ne.jp/~solid_fu/

常温核融合を巡る議論の際に、この公開実験時に配布された荒田博士の論文が引用されることがあります。しかし、この論文を読むと、素人ながら、論文としての信頼性に疑問を持ってしまいます。素人なので論文の中身は評価できませんが、素人にも分かる外形的な記述の問題から、論文としての質が低いと見えるのです。
荒田博士が常温核融合研究に大きな貢献をされている事は存じていますし、荒田博士が考案されたパラジウム合金パウダーによるガスローディング方式が非常に再現性の高い優れた実験方式だという事も存じています。それだけに、この論文を常温核融合を実証した代表作のように紹介するのは控えた方が良いのではないかと思っています。

この論文は前述の夢エナジー氏のサイトに掲載されています。

http://www10.ocn.ne.jp/~solid_fu/solid_nuclear_fusion_reactor.pdf
「固体核融合」実用炉の達成
The Establishment of Solid Nuclear Fusion Reactor
荒田 吉明・張 月嫦
Yoshiaki ARATA and Yuechang ZHANG
(Received February 20, 2008)
高温学会誌 第34巻 第2号(2008年3月)

以下、素人ながらも論文の質に疑問を持つ点を挙げさせていただきます。論文から抜き書き(引用)して、問題と感じる部分を赤色にしました。いずれも論文の「中身」には関係ない事柄ですが、私の拙い経験からも、外部公開される論文としては目立つ瑕疵であり、十分な推敲がされていないという疑いを持ってしまいます。

1.自慢話のように受け取られる表現が繰り返されている。

P85
筆者らは20年間以上にわたり、固体核融合の実用化を目指して、その特性の解明と実用炉開拓のみの研究に集中し、世界的にも独走状態で展開した
P86
従来筆者らは、この 20 年を通じ[1)-53)]「固体核融合の実証」について、常に世界で独走的な立場で先行、その成果を示したことはよく知られている。筆者等はこれらの装置を「実証炉」と命名した。つまり一種類だけでなく、数種類の実証炉を次々に開発し、その都度「固体核融合の実証」を確認し、発表してきた。そのレポートは現在までに70編を越えている[1)-53)]。
P90
更に上記結論もうひとつの決定的実験結果を紹介する。それは重水素と水素の核燃料の立場からの比較である。従来筆者らは、この20年を通じ「固体核融合の実証」について、世界の追随を許さず、独走的な立場でその成果を示してきたことはよく知られている[1)-53)]。筆者等はこれらの装置を「実証炉」と命名した。つまり一種類だけでなく、数種類の実証炉を次々に開発し、その都度「固体核融合の実証」を確認し、発表してきた。そのレポートは現在までに 70 編を越えている。

2.情緒的な表現が用いられている。

P85
従来の学問体系では考えられないほどの重要な新しい“自然現象”である。
P86 
これは考えられないほど、つまり予測出来ないほど決定的であり、想像を絶する新現象である。この新現象は、Fig. 3 のように異なった活性バルク試料(Zr3NiO のようなバルク合金)でも Pd 単独の「ナノ粒子」の 2 倍程度多く吸収して、全く同じ共通現象が発生しており、これは「歴史的現象」として結論される。

3.同じ表現が繰り返して出現する。

P88
そこで今回も新しく開発した前記「実用炉」を使用して重水素と水素の核燃料としての立場で比較したわけです。
P90
そこで今回も新しく開発した前記「実用炉」を使用して重水素と水素の核燃料としての立場で比較したわけです。


4.53編の引用文献のほとんどが御自分の論文である。
P92~P93で引用されている53編のうち51編の著者に荒田博士の名前があります。


5.本論以外への言及があり、読者が混乱する。

結論部分で突然イーター(ITER)との比較が論じられています。しかし、本論文の趣旨は実験結果の報告と解析であり、政治的な投資判断を論じることではない筈です。また、基礎研究段階である常温核融合と、実用化に向けての実証段階にある熱核融合炉開発を同列に論じるのにも無理があると思います。私も「国際熱核融合実験炉(ITER)」への多額な投資は無理筋ではないかと懸念している一人ですが、たとえそのような意見を持っていたとしても、この論文の中で論じるのは不適当だと思います。

P92
従って結論として、この固体核融合の「実用炉」は一方では熱エネルギー発生装置であり、他方では 4-2-He 製造装置でもある。イーターのような熱核融合装置がよいか、上記のような固体核融合がよいか、どちらが人類のために重要であるか論を待つ必要はないと考えている。私は 50 年前、公開実験で、現在でさえ世界最高の電流と温度を発生させた記録的装置を製作 ・ 実験し、日本の熱核融合をスタートさせた立場上、それぞれの機能はよく理解しているので、特にその感を深くしている者である。国家として或いは人間社会としても、早く決断すべきと考えている。単に日本のためだけではなく、人類のためにも大切な事である
上記固体核融合は家庭、自動車、船、航空機、大型エネルギー源として活用可能と考えている。現在の空気汚染状況を考えるとき、速やかな対応が望まれる。また、更に新しい学問・産業の展開も可能と考えられる。
最後に、従来の“熱核融合反応”は危険物質を多量に放出し、その対策が極めて重要であることは一般によく知られている事実であるが、今回の“固体核融合反応”は全く無害であり理想的な実用炉であることを知っておくことは“人類のエネルギー源”として極めて重要なことである。

以上

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