2009年10月7日水曜日

地下への注水で地震が引き起こされる

昨日の記事で、「地下への注水により地震が起こった例」が沢山あると述べました。俄には信じがたい話なのですが、実は地震学の分野では良く知られた話らしいのです。

この例が地震学者の島村英紀博士のホームページに載っています。少し長いのですが、引用させていただきます。赤色は全て引用者である私がつけたものです。

人間が起こした地震
■引用開始
 米国コロラド州のデンバー市のすぐ北東で深い井戸を掘って、放射性の汚染水を捨てたことがある。米空軍が持つロッキー山脈兵器工場という軍需工場の廃液であった。それまでは地表にある貯水池に貯めて自然蒸発させていた。厄介ものの汚染水を処分するには自然蒸発よりはずっといい思いつきだと思って始めたのに違いない。井戸の深さは3670メートルもあった。大量の汚染水を捨てるために、圧力をかけて廃水を押し込み始めた。

 この廃液処理を始めたのは1962年3月のことだ。3月中に約16,000トンもの廃水が注入された。

 四月になって間もなく、意外なことが起きた。もともと1882年以来80年間も地震がまったくなかった場所なのに、地震が起きはじめたのだった

 多くはマグニチュード4以下の小さな地震だったが、中にはマグニチュード5を超える結構な大きさの地震まで起きた。マグニチュード5といえば、松代での群発地震の最大の地震に近い大きさだ。もともと地震活動がごく低いところだから、生まれてから地震などは感じたこともない住民がびっくりするような地震であった。人々はこの工場での水の注入が地震を起こしていることに気づき、ちょっとした騒ぎになった。

 そこで、1963年9月いっぱいで、いったん廃棄を止めてみた。すると、10月からは地震は急減したのである

 しかし、廃液処理という背に腹は替えられない。ちょうど1年後の1964年9月に注入を再開したところ、おさまっていた地震が、突然再発したのである

 そればかりではなかった。水の注入量を増やせば地震が増え、減らせば地震が減ったのだ。1965年の4月から9月までは注入量を増やし、最高では月に3万トンといままでの最高に達したが、地震の数も月に約90回と、いままででいちばん多くなった。水を注入することと、地震が起きることが密接に関係していることは確かだった。

 量だけではなく、注入する圧力とも関係があった。圧力は、時期によって自然に落下させたときから最高70気圧の水圧をかけて圧入するなど、いろいろな圧力をかけたが、圧力をかければかけるほど、地震の数が増えた

 このまま注入を続ければ、被害を生むような大きな地震がやがて起きないとも限らない。このため地元の住民が騒ぎ出し、この廃液処理計画は1965年9月にストップせざるを得なかった。せっかくの厄介者の処理の名案も潰えてしまったのであった。

 地震はどうなっただろう。11月のはじめには、地震はなくなってしまったのであった。

 こうして、合計で60万トンという廃水を注入した「人造地震の実験」は終わった。誰が見ても、水を注入したことと、地震の発生の因果関係は明かであった
■引用終了
上記は米国での事例ですが、日本でも実験をした例が上記のホームページに記載されています。
■引用開始
 日本でも例がある。前に話した長野県の松代町では、群発地震が終わったあと、1800メートルの深い井戸を掘って、群発地震とはなんであったのかを研究しようとした。その井戸で各種の地球物理学的な計測をしたときに、水を注入してみたことがある。

 このときも、水を入れたことによって小さな地震が起きたことが確認されている。しかもこのときは、米国の例よりもずっと弱い14気圧という水圧だったのに、地震が起きた
■引用終了
この松代町の注水実験については、以下にも状況が記されています。

日本の群発地震(Earthquake Swarms in Japan)
■引用開始
◇松代における毎日の有感地震回数の変化は、1966年に 2回の活動期があり、その後は徐々に沈静し、1970年末には、ほとんど終熄した。
1970年末までに震度I=57627回、II= 4706回、III=429回、IV= 50回、V=9回、有感地震総計 62821回、全地震数711341回である。 1つの地震の規模で最も大きいのは M=5.4で、地震の全エネルギーは、規模 6.4の地震 1つに相当する。
岩の中に注水すると地震が生じやすくなるという、いくつかの事例を検証するためにわが国ではじめての試錐が1969年から国民宿舎松代荘ではじまり、1933m(深さ1800m)掘って、1970年 1月15日~18日、 1月31日~ 2月13日の 2回にわたり計2883立方メートルの水を注入した。
その結果注入地点の 3km北で、 1月25日02時ころから急に地震がふえ、この 1日で54回に達した。地震活動は注水中続き、注水後徐々におさまった。この地点での地震活動は注水前は 1日 2回くらいだった。[21]
■引用終了
さて、上記の例はいずれも人間が意図して水を地下に注入した例でしたが、ダムを造って、地面に水圧をかける事で意図せず地下に注水する事になり、それによって地震が引き起こされたと思われる例も複数挙がっています。島村博士のホームページから例を一つ引用します。
■引用開始
 このほか、意図して水を地下に注入したわけではないが、ダムを作ったために地震が起きたり、あるいは地震が増えたことが世界各地のダムで確認されている。

 米国のネバダ州とアリゾナ州にまたがるフーバーダムは高さ221メートルもある大きなダムだが、1935年に貯水を始めた翌年から地震が増え、1940年にはこのへんでは過去最大になったマグニチュード5の地震が起きた。地震の震源は地下8キロにあった。もちろんダムの底よりはずっと深い深さだ。しかし、これはダムを作ったために起きた地震だと考えられている。
■引用終了
上記の例以外にも、ダムに貯水してから周辺で地震が起きるようになった例が幾つも紹介されています。

地震被害の多い日本では、当然、こういった人造地震(誘発地震 induced seismicity)の研究を進め、ダム建設等に際しては事前に入念なリスク評価が必要になってくる筈です。しかし、何故かそういう状況にはないようです。徳山ダムに誘発されたと思われる地震で大きな被害が出てしまったら、取り返しがつきません。一刻も早く調査と対策が講じられるよう、色々な人に働きかけて行きましょう。

以上

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